
「後継者問題、誰を後継者にすべきか、ずっと考えているんです」
中小企業の社長と話していると、このテーマに行きつきます。株式の渡し方、税金の話、後継者の育成、そして親族か社員か外部かの選択。どれも重要な議論です。
パブロ私が経営者と関わってきて感じることがあります。後継者を「誰にするか」を考える前に、もう一つ、整えておくべきものがあるんです。
「後継者問題」の通説と、抜け落ちている視点
事業承継の議論は、たいてい三つに集約されます。
- 株式や経営権をどう承継するか(税制・法務)
- 後継者をどう選び、どう育てるか(人材)
- 取引先や金融機関と関係をどう引き継ぐか(信用)
書籍を開いても、セミナーに出ても、相談先から渡される資料を見ても、ほとんどこの三つで構成されます。それぞれ、確かに大きなテーマです。
でも、もう一つ、見落とされやすい視点があります。それは、承継のタイミングを決めるのは、社長の体だということです。
体が決めるタイミング
事業承継は、社長が「そろそろ譲ろうかな」と思った時に始められるわけではありません。
「もう少し業績を伸ばしてから」「あと数年は自分でやれる」「後継者がもう少し育ってから」。そう考えているうちに、突然、社長の体が動かなくなる日が来ることがあります。それは病かもしれないし、判断力の急な低下かもしれないし、いつもの疲労が積み重なった結果かもしれません。
その瞬間に、承継の選択肢はぐっと狭まります。準備していた人に渡せるなら、まだいい方です。準備が間に合わなかった会社では、社員も家族も、突然の判断を迫られることになります。
経営者本人が動けなくなったあと、会社の決定は、本人の手の外で起きていきます。
「いつかやろう」が、一番危ない



私が経営者と関わってきて、危ないと感じるのは、健康に問題がない時の「いつかやろう」という言葉です。
体が動くうちは、承継の話は「まだ早い」と先送りされがちです。日々の業務に追われ、目の前の判断に追われ、健康診断の予約も先延ばしになります。
しかし、突然の病や、急な体力の落ち方は、本人の予感に従って起きるわけではありません。「いま元気だから、まだ大丈夫」と思っていた時期に、転機は静かに来ます。
承継のタイミングを自分で選びたいなら、健康そのものを、経営の意思決定の一部として扱う必要があります。「会社のこと」と「自分の体のこと」を、別の話として分けてはいけません。
今日から始められる、たった一つ


事業承継のために健康の話を切り出すと、多くの社長は「運動を始めます」「食事を見直します」と答えます。どちらも大切です。
ですが、本当にやるべき第一歩は、もっと地味なことです。
毎年、人間ドックを受ける。 これだけです。
会社の決算と同じ感覚で、自分の体の決算をする。年に一度、数字で自分の状態を把握する。これを「いつかやる」リストから「毎年やる」リストに移すだけで、承継準備の入り口に立てます。
体の数字が見えるようになると、承継の話は、漠然とした「将来のこと」から、具体的な「現実の準備」に変わります。すると、後継者選びや株式の話も、現実のスケジュールの中で動き出します。
事業承継は、後継者を「誰にするか」だけの問題ではありません。「いつ、どう動けるか」を、社長自身の体が決めています。
会社の健康診断は毎年やる。社長自身の健康診断も、同じように、毎年やる。
その一つの習慣が、後継者問題の景色を変えていきます。
この記事のまとめ
- 事業承継の議論は「株式・後継者選び・取引先」の三つに偏りがち
- 抜け落ちやすいのは、承継のタイミングを決めるのは「社長の体」だという視点
- 体が動かなくなった瞬間、承継の選択肢は急に狭まる
- 第一歩は「毎年、人間ドックを受ける」だけでいい
- 会社の決算と同じ感覚で、自分の体の決算をする










