
夏になると、なぜか小さな判断ミスが増える。打ち合わせで話がまとまらない。決めたはずのことを、翌日ひっくり返したくなる。心当たりはないでしょうか。
多くの人はこれを、気合いや集中力の問題だと考えます。僕は、そうは思いません。暑さは、判断力を静かに削るからです。
今日は、夏バテと経営判断の関係について、研究で報告されていることと、夏の決め方の工夫を書きます。
パブロ根性で乗り切る話はしません。環境と体の話です。
暑さが頭の働きを鈍らせることは、研究でも報告されている
暑さと頭の働きの関係は、いくつもの研究で調べられています。
例えば、ハーバード大学の研究チームが、夏の熱波の時期に、冷房のある寮とない寮に住む学生を追跡した調査があります。涼しい寮の学生に比べて、暑い寮の学生は計算テストの反応が遅く、正答のペースも1割ほど低かった、という報告です。
室温と作業の質の関係では、涼しい部屋と暖かい部屋で文章の校正をしてもらったところ、暖かい部屋ではミスの見落としが増えた、という実験もあります。日本の労働安全衛生総合研究所も、室温が20度台後半へ上がるにつれて、集中を要する作業の効率が下がっていくという報告をまとめています。暑さそのものに加えて、寝苦しさによる睡眠不足や食欲の低下といった、いわゆる夏バテの症状も、頭の働きには同じ方向に効いてきます。
若くて体力のある学生でさえ、この差が出ます。日々重い判断を積み重ねている経営者が、夏の暑さと無関係でいられるとは、僕には思えません。
本当に怖いのは「自覚できない」こと
夏バテで食欲が落ちれば、誰でも気づきます。体がだるければ、休もうと思えます。
判断力の低下は、そうはいきません。鈍った頭で考えても、鈍っていることには気づけないからです。
- いつもなら気づく違和感を、素通りしてしまう
- 検討が浅いまま、「もうこれでいい」と決めてしまう
- 逆に、決めるべきことを「また今度」と先送りしてしまう
どれも、後から振り返って初めて分かる類のものです。夏の判断ミスは、その場では気づけず、数週間後に数字や契約の問題という形で現れることもあります。
以前、判断ミスが増えた経営者は、戦略ではなく体を疑えという記事を書きました。夏は、この「体を疑う」がいちばん効く季節だと思っています。
夏の経営判断を守る、3つの工夫
だから僕は、夏のあいだ、決め方そのものを変えることをおすすめしています。


1つ目は、重い判断を涼しい時間帯に寄せることです。契約、人事、大きな投資。そういう判断は、朝の涼しいうちに済ませる。午後の暑い時間帯には、決断のいらない定型的な作業を回す。それだけで、判断の質はずいぶん守れます。
2つ目は、迷ったら翌朝に持ち越すことです。夕方の暑さの中で迷っている案件は、たいてい、その場で決める必要がありません。ひと晩置いて、涼しい朝にもう一度考える。朝の自分の方が、だいたい良い判断をします。
3つ目は、決める数そのものを減らすことです。判断力は、使うほど目減りしていくと言われています。これは決断疲れの記事に詳しく書きましたが、暑さで目減りが早くなる夏こそ、小さな決断を減らして、重い判断のために余力を残しておく工夫が効いてきます。



僕自身、夏の重要な判断は午前中と決めています。午後に決めたことは、翌朝もう一度見直すようにしています。
涼しい環境は、コストではなく経営資源
最後に、ひとつだけ。
僕が経営者と関わってきて感じるのは、夏の冷房代を「削れる経費」の側に置いている会社が少なくないことです。「冷房代がばかにならない」という話は、毎年のように耳にします。気持ちは、よく分かります。
でも、設定温度を上げた部屋で目減りしていくのは、そこで働く全員の集中力と、社長自身の判断の質です。判断ひとつで大きなお金が動くのが経営ですから、その判断を守るための室温は、経費というより投資に近いお金だと、僕は思っています。
ちなみに、冷やしすぎもまた体と集中力を削ります。エアコンとの付き合い方は、エアコン疲れの正体という記事に書きました。
暑さは避けられません。でも、暑さの中でどう決めるかは、選べます。
重い判断は涼しいうちに。迷ったら翌朝に。決める数は少なく。暑い季節の決め方の、参考になれば嬉しいです。
この記事のまとめ
- 暑さが計算力や作業の質を下げることは、複数の研究で報告されている
- 判断力の低下は自覚できないのが怖いところ。夏の判断ミスは数週間後に形になって現れる
- 重い判断は涼しい時間帯に寄せ、迷ったら翌朝に持ち越す
- 決める数を減らして、重い判断のための余力を残す
- 涼しい環境にかかるお金は、判断の質を守る投資に近い










